『TPPとくらしを考える学習会 第3回』は、
『公共事業のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか』
報告2は、「TPP協定第15章 政府調達」
今回は公共事業の観点として、政府調達だけでなく、国有企業、投資章も絡ませて説明いただきました。
報告1は、こちらから→
「公共事業の入札のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか」
報告2:「TPP協定第15章 政府調達」
報告者 樫原正澄さん(関西大学教授、TPP大阪ネットワーク代表)
1、TPP協定によって、政府調達はどうなるのか
政府調達について、TPP協定の15章「政府調達」、17章「国有企業」を手掛かりに考える。
TPP以前、WTOからすでに政府調達協定(GPA)は入っており、1981年に発効している。しかしながら、加盟国が広がっておらずTPPを起爆剤として広げていきたいと言う思惑があるのではないか。
先進国が途上国に「攻めていく」こと。アジアにおいて中国に負けては困るという、アメリカの戦略と考えられるかもしれない。地味な分野ではあるが、着実に機能を発揮するのではないか。
TPP協定における政府調達の特徴は3つある。
①使用言語
英語中心である。発注するのに普通は10日でできるが、英語だと40日かかる。審査していくのも英語である。日本語だと簡単にできるのに、手間がかかるという問題が、まずある。
②調達の公正性
調達の公正性というのは透明性を高める話だが、どうなるのか懸念されるところである。
③政府調達附属書の日本の異常な譲歩
日本の調達基準額はWTO基準が堅持されているが、TPP交渉参加国全体の中でみれば、日本は異常に譲歩していると見える。
2、TPP協定第15章「政府調達」の内容について
・基本原理としては、内国民待遇と非差別待遇(15.4条)である。
・使用言語(15.7条)は、TPP特有である。TPPは、「使用言語」については英語を奨励している。
・調達の公正性は、TPP特有である。
健全性の確保を主張しており、①政府調達における腐敗行為への行政ならびに刑事上の措置の確保、②違法行為等の供給者の参加資格の剥奪等、③調達従事者等の潜在的な利益相反の排除が、指摘されている。
日本への影響としては、日本の「談合社会」への懸念が挙げられる。
・中小企業の参加の促進は、TPP特有である。具体的にどうなるのかは不透明である。
・政府調達に関する小委員会
本章でも、小委員会が規定されているが、具体的な規定はなく、どう機能していくのか懸念される。
・追加的な交渉
TPP締約国は「本協定の効力発生日から3年以内に適用範囲の拡大を達成するために交渉を(地方政府適用範囲を含む)開始しなければならない」(15.24条2項)とある。
現時点では大きな変更はないだろうが、「生きている協定」としてどういう方向に動いていくのか、注目が必要である。
・TPP「投資」章との関係
政府調達と投資との関係は不透明な部分はあるが、「政府調達」供給者が、TPP「投資」章の投資家に該当すれば、「ISDS条項」問題が浮上することとなる。
・「政府調達」付属書
TPPでの日本の異常な譲歩となっている。政府調達対象基準額において、他のTPP交渉参加国よりも低く下げている。
3、TPP協定第17章「国有企業」の特徴と問題点
・TPP協定の国有企業の基本的な問題点は、次のとおりである。
①TPP協定が国有企業章を初めて設けた。
②国有企業章の基本は、無差別待遇、商業的配慮であり、非商業的援助との対抗関係にある。
③国有企業の否定、商業ベースの競争条件の整備。
・TPP協定第17章「国有企業」の内容について
定義(17.1条)として、国有企業、指定独占企業と書かれている。
日本の「国有企業」としては、業種別には、病院(研究機関を含む)、金融(開発・国際)、高速道路・空港・地下鉄等の輸送インフラ、投資ファンド、資源・エネルギー関連、放送・通信等である。
地方自治体による公有企業である、鉄道、空港、病院等々の「公社」。
小委員会設置(17.12条)が本章にも入っている。
追加交渉(17.14条、付属書17-C.D)の規定があり、発効後5年以内に、地方政府傘下の企業に関する留保されている規律(17-D)を適用すること、及びサービス提供による6条(非商業的支援)及び7条(悪影響)の規律を域外国市場に生じる影響に迄拡大すること、について追加交渉(17-C)とされている。
付属文書Ⅳにおいて、特定の国有企業等の特定の活動については、本章の特定の規律を留保できるにもかかわらず、日本は留保していない。
・懸念される事項としては、次のとおりである。
①国有企業の定義が不透明。
②適用範囲限定の不十分さ。
基礎的な社会インフラである、鉄道、病院、郵便事業等の取り扱いがはっきりしない。
③非商業的援助に対するISDS提訴の可能性。
④海外急送便事業を持つ郵便事業への制約。