「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」

私たちは、日本政府にTPP交渉における「国民への説明責任を果たす」こと、衆参農林水産委員会における「国会決議を遵守する」ことを求め集まった、大阪で活動する約30団体のゆるやかなネットワークです。FBページはこちらから→https://www.facebook.com/tpposakanet/

【緊急学習会開催報告】余っているのになぜ輸入?国産牛が消える ~牛乳がなくなる、生まれた命をなぜ奪う~

国産牛が消える。国内の酪農・畜産が危ない!
ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク主催で開催した、講師は長谷川敏郎さん(農民運動全国連合会会長)を招いての緊急学習会の概要報告です。(図、写真は講師資料より)

tpposaka.hatenablog.com

 

雪崩のように進む離農・廃業

2023年1月の全国の酪農家戸数は11,113万戸。前年同月より809戸(6.8%)が減少した。

東海では11.1%、近畿では10.4%と、10軒に1軒以上がこの1年間で廃業

高齢化などで毎年3~6%が離農し続けているが、昨年から今年ほど急激に減った年はない。

 

危機に至った三つの要因

その要因の一点目は、海外飼料に依存する経営をしてきた日本の畜産・酪農経営を直撃した餌の高騰である。

EUアメリカは乳価が上がっているが、日本の乳価はほとんど変わっていない。

1ℓで計算すれば100円の乳価のうち50円が餌代で、これが倍になった。搾れば搾るほど赤字ということになる、1ℓあたり30円引上げなければ、採算が取れない

 


二点目は、海外飼料への依存。

大規模化すればするほど、海外の飼料に依存しなければならなくなる、国がクラスター事業を推進したことである。

国が半分を助成して、「頭数を増やせ」、「牛舎を新しく作れ」、「乳を搾るのに機械にロボットを入れろ」などという形で規模拡大を進めさせた。

2020年頃から増産になったところに、コロナが発生して学校給食の需要が激減し、期末在庫が膨れ上がった。

牛は生き物である、生まれてから乳が搾れるまで6年かかる。
国は過剰だったら水道の蛇口を閉めるように乳を搾るな、足らなくなったら増やせというが、それでは酪農家はやっていけない。


三点目は、国内在庫が過剰でも、海外乳製品を輸入し続けていることである。

乳製品の自給率は27%しかない。
日本がクラスター事業で増産に向けて大拡大している時期に、EUと日本の経済連携協定によりEUからチーズが大量に入ってくる。その結果、今の酪農畜産の危機を招いている。


国内在庫が過剰であれば輸入を減らすのが普通だが、当たり前に輸入されている。
いかに輸入乳製品の量が多いか。蛇口を占めろということは、1頭15万円で4万頭を処分しろ、牛肉にしてしまえと言う話である。

 

ミニマムアクセス米として、日本では要らないコメ77万トンを輸入しているが、乳製品分野でもカレントアクセスといい毎年13.7万トンを輸入している。

これは義務でもなく、国際的な条約でもないが、日本だけは輸入し続けている。

世界的に見て、自国の酪農をつぶしてまで輸入する国は常識的にはない。

 

農水省の対応を変えた大運動

農民連は畜産農家の悲痛な叫びを受けて、「日本から酪農・畜産の灯を消すな!」と運動を始めた。昨年3月から21回に及ぶ農水省要請をおこなった。


昨年11月に農水省前・畜産危機突破中央行動(写真)、今年2月に日本の酪農・畜産を守れ院内集会を開催。野村農水大臣への直接請求は半年で2回、ネット署名は1ヶ月余りで80,000名を超え、畜産家約2,000名の個人要望書は第7次に渡って農水省に届けられた。

畜産危機突破中央行動(農水省前)

以下は野村農水大臣に提出した声の一部、現代の直訴状である。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

「先週、廃業した。地獄のように悩み、苦しみながら、決断した。家族の一員だった牛たちと、死に別れないといけない思いがわかるだろうか? 他の人が廃業しないように、しっかりとした支援と、廃業した人への支援も考えてほしい。」


「もう限界です。地元では夫婦で命を絶った人もいます。現場に足を運び、状況を見てください。」


「国の支援がいまだに届きません。このままでは年も越せません。早急にお願いします。配合飼料のコストを削ると牛の病気が多発します。生乳生産量も減少してしまいます。それでも私たち酪農家は朝、晩と搾乳をしなくてはならないのです。」


「乳価が11月から10円上がるが、その代金は12月にならないと入らない。春以降、原乳1㌔あたり飼料代が30~40円にもなっており、とてもやっていけない。もっと乳価を上げてほしい。」


「1頭あたり10万円の助成がほしい。」


「一時的な補助だけでなく、継続的な補助がなければ、来年の春は来ないと言える現状だ。農は国の基本、国民の命のもとと考える。食の重要性に対して信念のある指導者がほしい。国民の理解を得て、コストの転嫁が必要。」

 


2023年度予算通過直後に、予備費を使った畜産・酪農緊急パッケージが発表された。

4月中旬には農水省畜産局長から1万3千戸の酪農家に直接手紙が送られるという異例中の異例の対応を引き出した。一人ひとりの酪農家に寄り添う姿勢が示されたのは初めてのことである。

私たちは緊急対策として、営農を続けるために1頭あたり10万円の補助を訴えてきた。緊急パッケージでは1頭1万円に止まったが、それでも補助が出た。

さらに、自家配合飼料を使う農家、飼育農家、養豚・養鶏農家など、飼料代が急激に上がる時に備えた配合飼料価格安定基金に入っていない農家には、これまで餌代の支援が一切無かったが、1トンあたり1,200円の補助が出されることになった。

また、急激に上がった時には酪農家支援だけではなく、乳業メーカーと消費者も含めた日本の畜産酪農を守る国民世論が必要ということで、価格転嫁について協議会を設置して話し合うことになった。

 

厳しい状態は抜本的にはまだまだ打開されていない。それでも今回の前進がつくれたのは、酪農家が大小や経営形態を乗り越えて大同団結し、運動を広げて世論に訴えてきた成果であると、長谷川さんは締めくくった。