5月24日(日)ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク主催で実施した
TPPとくらしを考えるシンポジウム①「過去からよみとく未来予想図~外国貿易障壁報告書などを受けて~」から、医療制度、医薬品についての報告2です。
※7/12開催のパート2案内はこちらから
<報告1>食料輸入と食の安全をめぐって はこちらから
「過去からよみとく未来予想図~外国貿易障壁報告書などを受けて~」①
<報告2>医療制度、医薬品をめぐって
安田雅章さん(大阪保険医協会副理事長)
1、TPPの医療への影響
TPPの医療への影響としては、国民皆保険制度の空洞化と営利企業の参入があげられます。
医師は、医師法に基づいて仕事をしておりまして、非営利であります。医療行為は公益性を持っており、その上で国民皆保険制度が成り立っているのであります。この点が大事なことです。
そうであれば、保険給付範囲の縮小(保険外し)、混合診療の全面解禁、医療特区という事態が進めば、皆保険を守ったとはとても言えないと考えます。
株式会社による医療経営とは、どういうものでしょうか。
医療法人と株式会社との大きな違いとしては、次のことが考えられます。
医療法人の場合には剰余金が出れば、最適な治療をした結果として得られた剰余であり、これは医療のための再投資に向けられます。
株式会社の場合には「利益の最大化」をめざして、「費用の最小化」を追求し、その結果としての利益は株式所有者に配当することとなります。
2、新薬の高額設定を求めるアメリカ
米国の薬が日本に大量に入ることになれば、薬価は1.5倍となり、医療費の高騰が予想されます。現在は、日本では2年に一度、薬価・診療報酬の改定があり、適正な価格体系を検討しており、安い料金で医療を提供できています。しかしながら、米国の要求に沿って、薬価・診療報酬制度を変更すれば、医療費は上がり、医療格差が生み出され、国民の医療の空洞が進行します。
先日、日本の保険診療として認められた、C型肝炎の新薬「ソバルディ」は、一日一錠服用で7万円であり、28日間飲み続けねばならず、薬代は約200万円を必要とします。日本には、この症状の患者さんは、約200万人いますので、200万円×200万人分の巨額な医療費がかかります。しかし、米国並みの価格水準で購入すると仮定すれば、日本で個人輸入すれば約10万円しますが、健康保険のお蔭で7万円に抑えられている訳であります。
高額な薬価設定を維持し、特許を長く使えるようにするために、一つの薬で2000位の特許申請をします。このように多くの特許を介入させますと、後発薬の開発が抑えられます。後発薬が、どこかの特許に抵触するように手立てを考えて、高価格な薬価を維持しています。
3、日米構造協議で医療にどのような影響があったか。
1993年には、日本政府は米国から、「医療技術・サービスへの外国企業の参入、自由競争の拡大」を求められています。
1994~2008年までの15年間に、米国の要求に基づいて、栄養補助食品の厚生労働省審査除外、ビタミン剤の保険外し、グルコサミン・コンドロイチンなどの各種サプリメントを保険から外され、栄養補助食品の販売は自由化されています。
2001年には、米国から医療機器承認の迅速化を言われています。承認に時間がかかることは事実ですが、早くした場合には、安全性の問題が懸念されるところであり、慎重にすべきだと思っています。
その他、レセプトオンライン請求の完全義務化については、2015年4月から予定されていましたが、一部変更して実施されます。マイナンバー制度も同様ですが、個人情報流出の危険性があります。
2002年には、米国からコスト削減・効率化の要求が出ています。一般医薬品のインターネット販売、うがい薬の保険外しなどが要求項目です。
2010年には、米国から「新薬創出等促進加算」の導入を要求されています。新薬の特許期間が切れて、後発医薬品が発売されるまでの間、発売時の薬価を維持するための制度を診療報酬改定で試験的に導入するものです。特許が切れると、薬の名前を変えて薬価を維持します。どんどん名前が変わるため、医者も薬名を覚えきれないほどであります。
このように、米国の要求項目は、ほぼ数年中に要求どおりに実施されて来たことが分かります。
4、TiSA(新サービス貿易協定)
TPP以外にも、TiSA(新サービス貿易協定)交渉が進んでいます。モノ以外のあらゆるサービスの規制緩和であり、社会保障の規制緩和を狙っています。民間保険会社のマーケット拡大、営利企業のために医療市場の開放、ビッグデータの活用で、新たなビジネスチャンスが生まれます。
こうした米国の要求は、日本政府の成長戦略に記載されている、医療費抑制策である、「入院から在宅へ」と奇妙に合致しています。入院から在宅に変えるためには、生活環境や介護者の考え方などさまざまな条件整備が必要であるにもかかわらず、半強制的に、2025年までに実施しようとしており、大きな問題を内包しています。
医療を成長戦略とすることには、なぜ無理があるのでしょうか。
医療はピラミッド型の構造で成り立っており、地道な地域医療から、緊急性を要する医療や高度な医療は上の病院に、とさまざまな役割分担があって、日本の医療制度が成り立っています。医師一人で医療ができるわけではなく、こうした医療制度の上で、国民の健康は維持されます。単独の病院だけで医療が成り立っているわけではありません。
5、成長戦略と医療・介護の市場化
規制改革会議で「患者申出療養(仮称)」が提言され、先日、医療保険制度改革法案の中で可決・成立しました。「患者の申し出」を起点としていますが、国内未承認薬などの迅速な保険外併用で使用するための仕組みであります。患者の責任において、医療を実施するものであり、混合診療の自由化であります。「保険収載のめどがたたず患者負担が増大」します。そして、患者の自己責任・自己負担で行う治療でありますので、大きな問題を残しています。
本当は入院のほうが、コストは安くつくと思うのでありますが、政府は在宅を主張しています。在宅の場合は、地域包括ケアシステム、ボランティアによる支えあい、ヘルスケアリート(高齢者施設を対象とした不動産投資)。高齢者向けビジネス、ヘルスケア事業の地盤となりますが、経営者が変わることで方針が変わればどうなるのか、心配です。
同じく、産業競争力会議では、「医療特区」で医療ビジネスの推進を言っています。医療特区が進めば、皆保険制度は骨抜きとなり、日本全国で医療特区だらけとなります。
6、地域での実践、地域から情報発信を
大阪府地域医療介護保険確保計画では、「病院のうち民間病院は483ヵ所と91%を占め、救急搬送の77%が民間病院で担われるなど地域医療・政策医療の推進に大きな役割を果たしていることも特筆である」と記載されています。
規制緩和によって、消費者にとっては選択肢が広がり、豊かな社会が実現できると盛んに宣伝されましたが、現実はどうでしょうか?
結果として、お金のある人は十分なサービス提供を受けたかもしれませんが、そうでない人にとってはサービス格差が広がったというのが、この10年間の実感です。
そして、社会や政府の責任で担われていたものが、個人の責任となっており、あなたが決めたことでしょうという考え方が大きな流れとなっています。
これが、この間の日米2国間協議を踏まえて考えた際に、浮かび上がってきた現実であります。
TPPが日本の医療制度を壊すといっても、医者の中でもそうは思っていない人もいます。医療は成長戦略の構成要素だと思っている医者もいます。
でも、医療制度はどのようにして成り立っているのかを考えた場合、地域・底辺の医療の現状を理解していない人も多く、医療の現場を理解していただきたい。国民の生存権を守り、非営利、公共性を理解して、医療活動に従事する医師が多くなれば、患者さんにも医療現場の現実を理解していただく活動が活発になると思います。
(文責:ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク事務局)