「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」

私たちは、日本政府にTPP交渉における「国民への説明責任を果たす」こと、衆参農林水産委員会における「国会決議を遵守する」ことを求め集まった、大阪で活動する約30団体のゆるやかなネットワークです。FBページはこちらから→https://www.facebook.com/tpposakanet/

【開催報告】「稼ぐ力」をつければ日本経済は発展する?~どうなる!地域の生産とくらし~

2018年2月、岡田知弘氏京都大学大学院経済学研究科教授・自治体問題研究所理事長)をお招きし、学習会を開催しました。

幅広い充実したお話を頂いたので、要約抜粋し以下報告します。

 

■詳細版はこちらからご覧いただけます。

岡田知弘・「稼ぐ力」をつければ 日本経済は発展する? (2018.2.25講演報告).pdf - Google ドライブ

 

 

<以下要約版>

 

「稼ぐ力」をつければ日本経済は発展する?

~どうなる!地域の生産とくらし~開催報告

文責:ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク事務局

 

 

「稼ぐ力」は安倍政権が成長戦略として目玉にあげている。TPP11等、メガFTA自由貿易体制が進められているが、果たして国内・大阪の経済にどんな影響を及ぼすのか見ていきたい。

 

▼政財官「抱合」体制の強化

第二次安倍政権で、「経済財政諮問会議」の役割が強化された。固定メンバーは民間4議員であり、経済団体やその意向を代弁する学者だ。民主党政権時には廃止されていたが復活した。

 

最も強硬な新自由主義的な改革案を「骨太方針」として発表。マスコミにぽつりと出し、反発があればひっこめる。反発が少しなら、少し修正し、反発がなければそのまま進める。

選挙で選ばれていない民間議員が一番大きな権力を持っている。

 

▼お金を流せば景気が良くなる?

アベノミクスの旧三本の矢は、金融緩和でお金を流せば景気が良くなるとの前提。しかし4倍の通貨供給にも拘わらず、企業物価指数は99。ドルベース名目GDPは-26.4%と、民主党政権時や欧米諸国からみても、ダントツに下落している(2012-2015年)。

通貨の発行量を増やせば物価を上げられるという日銀のやり方は、すでにアダム・スミスも批判している。通貨は実体経済で動く。それ以外は投機的な動きでしかない。金融政策だけで経済が良くならないことは明白だ。

 

▼「稼ぐ力」より、「誰が稼ぐのか」が問題

「規制改革会議」では、経済成長を阻む岩盤規制にドリルで風穴を開けるとしたが、内容は、雇用(労働時間規制の緩和)、農業(農協・農業委員会制度改革、農地取引の企業開放)、医療(混合診療)。

 

産業競争力会議」では、雇用(女性・外国人労働力の活用)、福祉(公的年金資産での株式運用増)、エネルギー(原発早期再稼働)などで、「稼ぐ力=収益力」と説明されている。

これで稼げるのは誰か?

多国籍企業と予想するが、それは書かれない。

 

▼利害関係者が決める腐敗の温床 特区制度

国家戦略特区諮問会議の議長は首相であり、「民間議員」として竹中平蔵氏らが入る。事業提案を自らできる事業者が立候補し、官邸が指名する方法であり出来レースといえる。例えば、人材派遣会社パソナの会長自身が、規制緩和を持ち込んでいる。

利害関係者を含む少数の人間が政治決定するこの仕組みは、腐敗の温床となる。中身が分かるのは事業決定後であり、住民自治も無視している。

 

▼メガFTAで、生活は豊かになるか

「総合的なTPP関連政策大綱」の言説は

①TPPはアベノミクスの成長戦略の切り札

②TPPの影響、国民の不安を払しょくする

③輸出を経済成長の柱

など。

 

「経済成長は輸出でしか実現できない。国内市場は人口減少で縮小するため、海外市場に出て、海外投資で稼ぐ」。大綱のこれらの論調は、アダム・スミス国富論」によって200年以上前に論破されている。

世界経済レベルでは、輸出額と輸入額は同額。貿易そのもので富は増加(=成長)しない。

大事なのは分業による付加価値の増加であり、分業による地域内経済循環だ。

 

▼戦後の高度経済成長は、なぜ実現できたか

「大企業が重化学工業化し、輸出主導で実現」したというのは幻想。

 

高度経済成長期には、日本列島の人口の移動があり、新たな生活を始めるため、新たな需要が創造、そのための重化学工業が必要だったのだ。高度成長期の需要項目別増加寄与率を見れば、個人消費支出が一位。雇用者・中小企業や農家等の所得が増えた結果、個人消費が景気に寄与したのが、高度成長期の経済成長の中身だ。

 

▼ミクロな視点の輸出拡大

政府はTPP中小企業分野として、4,000社の海外展開を支援するとしているが、国内の中小企業数は350万社。あまりにも小さい話だ。

個別の中小企業や農家が海外進出で頑張っていると事例を並べているが、中小企業の7割が地域内で取引している実態を無視した議論だ。

 

▼豊かさを実感できないのはなぜか

問題の元凶は、財界提唱の「グローバル国家」論の下での、低賃金・低コスト政策。そして、「デフレ」への処方箋が誤りだ。

 

物価動向を見ると、海外生産の逆輸入品によって物価が下がったのであり、グローバル化による海外生産が増えたことが原因だ。つまり、多国籍企業主導の経済のグローバル化に伴う、賃金・下請け単価の引き下げと、海外製品の逆輸入による物価低落にある。

 

大企業向けの法人税減税・富裕者減税を行う一方で、消費税は増税。中小企業の法人税実質負担率は大企業で12%の一方、小規模企業は19.3%。

 

国の中小企業予算は1,800億円どまりの一方、例えばトヨタは政策減税(研究開発費)で1,083億円、消費税還付(輸出戻し税)で2,000億円近くが戻る。トヨタ一社で国内の中小企業予算を超えている。一方、国税に占める大企業の法人税の比率は9%と極めて低く、社会的責任を果たしていないのが現状だ(消費税の国税比率25%)。

 

▼99%の人たちが豊かさを実感するために

経済民主主義の徹底が重要。

具体的には、

①経済政策の意思決定方法を変える(企業等による政治献金の禁止、経済財政諮問会議の廃止等)

②経済・財政政策の基本を変える(租税回避対策強化、多国籍企業への課税強化、社会保障費負担の軽減、最低賃金の引上げ等)

③地域内再投資力の量的質的形成(地域内の企業・業者、住民、自治体が主体となり、連携し、モノ・エネルギー・サービスを循環)

④中小企業振興基本条例・公契約条例(自治体の責務+金融・企業・大学・住民の役割を明確化し、対象を増やす等水準を高める。最低賃金の引上げ)

など。

 

労働条件の改善・賃上げは、大きな経済・社会効果を生み出す。例えば、非正規の正規化の必要原資は7.2兆円(内部留保費の1.2%)だが、生産誘発は10.8兆円、0.8%の税収増が見込める。

最低賃金の引上げ(1,500円化)の必要原資は13.9兆円(同2.4%)だが、生産誘発20.4兆円、1.6兆円の税収増が見込める(注:日本政府の税収は年間約50兆円)。

 

日本平均の中小企業比率は、企業数で99.7%、従業者数の70%を占め、圧倒的多数の人々の生活に直結する。国・地方自治体は行財政権限を生かし、実効性ある中小企業基本条例や公契約条例を使って、中小企業に光をあてるべきだ。

 

しかしTPPやメガFTAはそれらの規制や条例を排除する条項が盛り込まれる。批准・発効させてはならない。

 

グローバリズムの中で「経済性(短期的な金儲けの追及)」と「人間性(命と人間らしい暮らしの尊重)」の対立が広がっている。「協同」「連携」が必要不可欠であり、主体的な運動こそが、地域力をつける解決の道を作り出す。

「自分だけ、今だけ、お金だけ」だけでなく、普遍的な国民的利益を考えることが重要だ。