「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」

私たちは、日本政府にTPP交渉における「国民への説明責任を果たす」こと、衆参農林水産委員会における「国会決議を遵守する」ことを求め集まった、大阪で活動する約30団体のゆるやかなネットワークです。FBページはこちらから→https://www.facebook.com/tpposakanet/

7/12開催報告 「過去からよみとく未来予想図~外国貿易障壁報告書などを受けて~」②<報告3>郵政民営化と保険商品の窓口販売

 7/12開催報告

「過去からよみとく未来予想図~外国貿易障壁報告書などを受けて~」②

 

TPPと並行して進んでいる日米協議では、日本の大幅譲歩の報道も。

1980年代に始まった「日米構造協議」の歴史は何を物語るのでしょうか。
このシンポジウムでは、米国の対日要求と日本社会の変化について、私たちの生活にどんな影響を与えていたのか、これからどうなるのかを明らかにしていきたいと思います

 

5/24開催報告はこちらから。

<報告1>食料輸入と食の安全をめぐって 

<報告2>医療制度、医薬品をめぐって

 

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<報告3>郵政民営化と保険商品の窓口販売』
◇日時:7月12日(日)13:30~16:00(13:00~開場)

◇主催:ほんまにえええの?TPP大阪ネットワーク

 

当日資料はこちらから。

 

【報告1】郵政民営化と保険商品の窓口販売  

松岡幹雄さん (郵政産業労働者ユニオン顧問)

 

Ⅰ、規制改革、郵政、保険・共済、金融分野の流れ

 まずは米国の日本に対する規制改革の要求、その変遷について。過去の歴史的な経緯を見ることで、TPPの狙いがわかる。

 

対日貿易の赤字に苦しむ米国側が提起し、1970年代に日米交渉はスタートした。繊維に始まり対象分野は、鉄鋼、カラーテレビ、牛肉・オレンジ、自動車、半導体と拡大の一途をたどる。1980年代にはいると、エレクトロニクス、電気通信、医療品、医療機器、林産物、輸送用機器とさらに拡大する。

 

しかし、1989年にはじまった日米構造協議は、全く次元が異なるもの。協議と訳されているが、原語は「イニシアティブ」であり協議ではない。日本への構造改革要望である。

 

この中で、貯蓄・投資、流通機構、価格メカニズム、系列、排他的取引慣行といった個別の産業分野だけでなく、「日本の社会・経済構造そのもの」が遡上にあげられた。

 

米国は、通商交渉にもかかわらず対日貿易が改善されないことに業を煮やし、日本に構造改革をせまってきた。1994年からは、日米経済包括協議のもとで「年次改革要望書」が出される。これも原語は「勧告書」であり、要望書ではない。

 

年次改革要望書でも競争政策、商法・司法制度、民営化など構造改革を迫る内容が網羅されている。しかし、民主党鳩山政権の時にいったん日米経済協議が中止になった。

 

その後、米国はあらたに日米経済調和会議という形で、対日要求の実現をめざしてきた。「外国貿易障壁書」は、米国代表通商部(USTR)が米国通商法に従い、大統領と上院財政委員会、また下院の委員会に対して、外国の貿易障壁に関する報告書を提出する義務を負っているもの。

 

簡単にいえば、「米国の貿易の邪魔をしている世界各国の国内法や制度、慣行」集。400ページにも及ぶ膨大な報告書には世界61か国の「貿易障壁」が挙げられているが「日本」と「中国」の貿易障壁については圧倒的に分量が多い。

 

「外国貿易障壁報告書」をみるとTPP事前協議や日米2国間協議で米国が何を要求しているか、つまりTPP合意によって米国が日本をどのような青写真によって作り替えようとしているかがわかる。

 

今回のTPP参加は日本の経済的従属の異常な「制度化」の流れの総仕上げであり、日本の経済的主権を根こそぎ奪うもの。そして、その根底には、日米安保での経済的な従属の強制という問題があり、現在の安保法制は、一方で日本のアメリカへの経済的従属を深めるものだ。

(編注:日米安全保障条約の前文、第2条に「両国の間の経済的協力を促進」と記載)

 

日本郵便

民主党政権時、2011年報告書では、日本郵政を民営化すべきかどうかについては中立としていた。2005年の年次改革要望書では、「米国は、郵政公社の民営化という改革イニシアティブを特に歓迎する」と表明しており、一体どうしてという疑問が湧いてくる。

 

これは、もともと米国にとっての日本郵政の関心事は金融2社、とりわけかんぽ生命にあり、日本郵政という持株会社日本郵便にはさして関心がないためだ。「民営化されても、金融2社が完全民営化でなければ対等な競争条件でない」というのが米国の主張の中心だ。

 

【急送便】

急送便とは、EMSなどの国際急送便を指す。「EMSが税関等の取扱いにおいて優遇されている」と米国は主張しているが、米国を含め世界的に、国際郵便と国際急送便サービスで異なった通関手続となっているのが通例である。

「内部相互補助を抑止する措置が必要」と主張しているが、毎年度、郵便事業の収支の状況について内国郵便及び国際郵便に分けて公表。その中でも、国際郵便は黒字であり、内部相互補助が行われているとの指摘は当たらない。

 

 

【かんぽ生命】

かんぽ生命と他の保険会社は、保険業法の同じ規制を受けており、制度上の不公平はない。加えて、かんぽ生命は、他の保険会社にはない郵政民営化法の業務制限規制(限度額、業務範囲等)を受けている。

 

かんぽ生命について、「郵便局ネットワークへの優遇的アクセス」との指摘があるが、日本郵便株式会社が郵便局において他の保険会社の商品を受託販売することについて制度的な支障はない。日本郵便株式会社が、かんぽ生命以外の保険サービスについて、どのように取り扱うかは、日本郵便株式会社と商品供給会社の経営判断に委ねられており、競争条件の公平性の問題は生じない。

 

 

つまり、米国は妥当性のないことを毎年毎年要求してきている訳だが、それは、先も述べたように、日本郵政というよりゆう貯銀行、かんぽ生命の2社を完全民営化しなければ、限度額の引き上げもダメ、新規業務拡大もダメというスタンスであるためだ。

 

 

【共済】

保険業法改正で、本来少額短期保険の要件を満たす必要があったが、「認可特定保険業者としてこれまでどおり業務を行うことが出来る」としたことを不服としている。

 

2015年版では何を要求しているか。郵政・急送便に関しては全く一緒。新たに上場手続きへの透明性、つまり米国が納得するようなやり方で株式公開をやりなさいと言っている。

 

また、報告書では、麻生大臣の発言「かんぽ生命が完全民営化されるまでは認可しない」という旨の発言を歓迎し、2013年7月のアフラック社との業務提携を評価している。すでに、2014年末で1万店舗を超えており、将来は全郵便局での販売予定。共済も同じ内容。

 

 

【投資障壁】

報告書で新たな記述があった。

安倍政権成立前まで対内外国直接投資に積極的でなく、2013年は増えたものの、経済規模に対し取引数が小さいと懸念。安倍総理が2020年までに倍増するという目標発表したことを評価するが、目標達成するか施策の妥当性に疑問が残る、外資に対する態度が悪く、株主利益より保身的な経営陣を保護する企業統治、株式持ち合いはダメ、などの記載がされている。日本再興戦略で企業統治の強化の最重視が前向きな動きとされ、これで海外投資家が安心して日本に投資できるといった評価がされている。

 

 

Ⅱ 国内に於ける規制改革の動向

 

1982年のアルコール専売→新エネルギー機構、電電公社→NTT、日本たばこ、JR、と国内で「公企業の民営化」が進んできた。オリックスの宮内氏は10年間にわたり、規制緩和の音頭をとってきた。郵政民営化小泉政権の看板、「改革を止めるな」と郵政民営化しかないと自民党一面広告、当時は外交がよくなるなど、関係ないことまで関連づけ宣伝された。

 

郵政事業は、2007年10月の郵政民営化により、持ち株会社である日本郵政のもと、4事業を担う株式会社へと分割された。小泉郵政民営化では、日本郵政の株式3分の2を順次売却し、金融2社については2017年の9月末までに全株式を処分する予定だったが、2009年9月9日鳩山内閣が誕生した。

 

鳩山内閣のもと、郵政事業の抜本的見直しが政権合意され、10月には「郵便局ネットワークを地域や生活弱者の権利を保障し、格差を是正するための拠点として位置づける」ことを明記した「郵政改革の基本方針」が閣議で決定された。

12月には「郵政株式売却凍結法案」が可決成立、郵政民営化にいったんはストップがかかった。

 

2010年4月になり、「郵政改革関連法」案が衆議院に提出されたが、自民党などの抵抗にあい、たなざらしの状態が続いた。

 

しかし、2011年3月、東日本大震災の勃発で急展開をみせる。与党内にこれを好機として郵政株を復興財源にする案が急浮上する。まさに、ショックドクトリン。

 

その後、2012年3月に民主、公明、自民が現在の「郵政民営化法改正法」について3党合意し、4月27日現在の「郵政民営化改正法」が可決成立となった。

 

最終的には、郵政の株式売買資金を311の復興予算確保するため、「改正郵政民営化法」が施行されたが、この改正法を米国は気に入らない。

この法律は妥協の産物だが、「郵便と金融のセットのユニバーサルサービスを、全国あまねく公共サービスとして、いつでも公平に国民に提供せねばならない」と明確にしており、問題はあるが一歩前進しているためである。

 

 

【改正郵政民営化法とは?】

郵政民営化の定義・目的を変更

郵便事業会社と郵便局会社を統合する

③郵便だけでなく、金融についてもユニバーサルサービスとする

など、従来の小泉郵政民営化路線と比べれば確かに前進面があった。しかし、どうしても制度上、おかしな点が残っている。

 

たとえば、

①金融ユニバーサルサービスを義務化すると言いつつも、ゆうちょ銀行、かんぽ生命には義務化していない

②「郵政事業に係わる基本的な役務の確保等を勘案しつつ」と但し書きを加えつつも、できる限り早期に処分する

としてしまっている点などだ。

 

 

Ⅲ 安倍成長戦略の中で進められる郵政、保険共済、金融分野の流れ

 

成長戦略2015が出されている。さまざまこの間の成長戦略の上書きしたものだが、ただ一段と現実味を帯びている。安倍政権成長戦略2015年は、2014年とほぼ同じ。雇用制度改革では、多様な働き方の実現として派遣法改正が現実味を帯びてきた。国家戦略特区の実現、公的・準公的資金の運用等、これは年金基金の株式流用として具体化している。年金基金を50%まで株に流用するなど誰も考え付かなかったが、成長戦略として出ていることに要注意。

 

日本郵政は、すべてアベノミクスを支援する経営方向となっており、安倍政権のために忠実に動いている。原発プラント輸出と郵便インフラをアジアへ国際展開戦略として行っている。

 

また、膨大な設備投資を具体化する、「新中期経営計画2015~2017」を策定した。「中計」とは、投資家対策、日本郵政グループの成長戦略であり、最大の特徴は、投資戦略であり、不動産事業なども加速させる内容だ。JPタワーなど11、大阪は、ブランズ豊中南桜塚、大阪中央郵便局跡地イベント広場、仮設局舎等々。

 

2兆円の設備投資の一部を、外国企業のM&A資金に充てる。

一例として、豪トール社を6200億円で買収し、アジア、欧米地域でさらなるM&Aを実施するとしている。グローバル市場は、すでに大手4社が席巻しているのに無謀な挑戦だ。    

 

 

ゆう貯・かんぽ資金運用を、国債からリスク性資産運用拡大へと変える。これまで最大の国債購入先だったが、国債運用は、80%から50%に。国債運用は2015年3月決算で前年対比ゆうちょ銀行ではマイナス20兆円、かんぽ生命ではマイナス4兆円と急減している。そして、2017年SP国際分散投資総額60兆円とし、海外で発行・保管されている有価証券に投資する計画。

 

日本郵政と金融2社の株式上場計画は、6月末に本申請で10月株式上場予定。3社同時上場を西室社長が強引に進める流れになっている。通常20%程度の株主配当性向を50%、つまり純利益の半分を株主配当に回すとしている。そこまでしないとこの会社の株を誰も買わないという弱さを示す数字だ。株式上場も無茶だが、高値で売りたいがために無茶をしており国民の利益にならない。

 

 

Ⅳ 成長戦略に対して国民生活擁護の運動づくり

 

国民のための郵政事業を守る運動づくりが必要。郵政事業は、国民の共有財産であり生活インフラだ。逓信省から始まり歴史も長い。現在は、改正郵政民営化法が全て縛っている。郵便局で一体的に利用できること、全国ネットワークを維持すること、公益性及び地域性が十分発揮されることが明記されている。郵便・貯金・かんぽは、いつでも、公平に、生活基礎サービスとして情報・モノ・カネの交流を支える基礎的なサービス、インフラとして必要だ。

 

 

【TPPと郵政事業

まず、アフラックの問題。2013年7月26日、日本郵政アフラックの業務提携により、全国2万の郵便局でアフラックがん保険を販売することになった。これほど、TPPの恐ろしさを示す例はない。

 

日本郵政は、新規業務にストップがかけられただけでなく、郵便局ネットワークをアフラックがん保険の販売網に変えられ、がん保険市場を独占的にアフラックに明け渡す役割を担わされる。

 

これは、アメリカが要求している「競争条件の平等」などでなく、「市場の強奪」というべきもの。民業圧迫はだめ、という一方で、あきらかにダブルスタンダードだ。

 

この問題は、それだけにとどまらない。国民皆保険制度の空洞化とセットで進む、米国型の医療制度、民間医療保険で医療をまかなう方向性を想定した、医療保険への進出が次にねらわれている。

 

しかし、別にアフラックでも良いじゃないかという声も聞こえてきそうだが、アフラックという会社がどういう会社かを知る必要がある。

 

アフラックは、「膨大なノルマ」、「販売偏重の経営方針」、「運用の不透明性」で、金融庁から再三指導が入っている問題企業。また、アフラックは、現地法人化せず、日本支店であるために売り上げのすべてを本社アメリカが吸い上げている。問題はここにある。

 

つまり、一旦吸い上げた資金が、どのように運用され、どういう利益構造かが問題。

本来なら国内で運用されるべき資金が、アメリカに流れている。つまり国民の零細な預貯金からの掛け金が、アメリカにすべて吸い上げられてしまっているのだ。

 

第2に、日米二国間協議では、貿易障壁報告の内容を遡上にあげ、かんぽ生命の新商品展開にストップを迫り、麻生大臣から政府方針として、当面、新規商品展開を行わない談話を発表させてきた。その結果、日本郵政に、金融2社株の上場を正当化する口実を与えている。

 

第3に、金融2社の新規業務にストップをかけられ、郵便局への委託手数料の減少により、ユニバーサルサービス維持に支障が生じている。

 

 

【株式上場の問題点】

 

東証の上場基準からみて収益性に問題がある。上場後、利益が出ない可能性もある。親子上場、利益の2重取り、利益相反で、少数株主を守れない。

 

また、社員の約半数が非正規社員であり、非正規差別や30年を超す労働争議等の劣悪な職場労働実態の問題など、企業としての健全性が問われている。さらに、外資規制はなく、日本の民間保険会社の3分の一が外資に乗っ取られた実態を見た時、余りにも無防備に過ぎる。

 

さきほど、「金融2社にユニバーサルサービスが義務化されていない」と言ったが、これは、TPPとも関連する重大な問題。地方の多くの郵便局は、不採算局。金融2社は、毎年、委託手数料を郵便局に収め、消費税を国に支払っている。郵便局は、金融2社からの委託手数料があって、始めて運営ができる。

 

新たな株主は、不採算郵便局からの撤退を要求する可能性は十分すぎるほどある。もし、そうなるとドイツやニュージーランドがそうであったよう、地方の郵便局の閉鎖という事態が生じてしまう。郵便局ネットワークが維持できなくなり、通信のユニバーサルサービスも維持できなくなってしまう。

 

先日私たちユニオンから「郵政株式上場に関する提言」を発表した。本日資料としてお配りしている。是非皆さまのご意見をお願いしたい。

 

「郵政株式上場に関する提言」はこちらから→

http://www.piwu.org/kabusikijyoujyounoteigen.pdf

 

<文責:ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク事務局>