「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」

私たちは、日本政府にTPP交渉における「国民への説明責任を果たす」こと、衆参農林水産委員会における「国会決議を遵守する」ことを求め集まった、大阪で活動する約30団体のゆるやかなネットワークです。FBページはこちらから→https://www.facebook.com/tpposakanet/

11/29TPPシンポジウムより「アベノミクスと農業改革ー日本の食と農を考えるー」関大経済学部樫原正澄教授

11月29日開催した「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」主催の3回目、TPPとくらしを考えるシンポジウム『今の食、当たり前?~こどもに残したい未来~』

 

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渡辺先生体調不良により、急きょ「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」代表 樫原先生による基調講演の概要です。(当日の速記をもとにしています)

アベノミクスと農業改革ー日本の食と農を考えるー」
樫原正澄教授(関西大学経済学部)

大阪府千早赤阪村での取組紹介。既存住民の高齢化により新住民が頑張っている。学生とともに田植え体験などを行っている。直売所で「おおさかもん」として売り出している。生産者の名前も表示し、バーコード管理で生産者に販売記録も。
美しい棚田。残すにも、跡取りがいてもしんどい状況。機械が入らない小さな棚田が多い。

 

これから講演スタート。
 経済学的に考えても、農業は特殊な産業部門であります。
 1つめとしては、農業の産業としての特質は「食料供給産業」にあります。農産物は人間の生命と深く関係していますので、安心・安全で当たり前です。また、農業生産は、集中豪雨などの自然条件に大きく左右され、雨や風によって農作物は被害を受けます。都会にいると、あまり意識しませんが。
 工業と違って、いつでも自由に生産を開始するという訳にはいきません。田植えには、適切な時期があります。生産性をあげるといっても、限界もあります。

 

 2つめには、農業は「物質循環機能」を利用した自然活用産業であることです。現代農業は化学肥料を使っていますが、かつては、食べたものは排泄されて、土壌に堆肥として循環していました。江戸時代などは、大坂では下肥として非常に高値で売買されていました。物質循環機能は、地域の経済・社会循環の基礎にあります。

 

 3つめは、農業は「土地固着産業」であるということです。土地を離れて、農業生産はできません。そのため、農業は土地に固着せざるを得ないわけです。

 

 4つめ、農業は国内自給が基本であり、自国民を食べさせるために、農業生産は持続されています。それが、世界的にみても、基本であります。アメリカなどは、最初から売るために作物を作っていますが、世界的には少数の国です。生産量に対して貿易量は少なく、コメは少ない年で世界の生産量の6%しか国際市場に出てきません。そのため価格変動は激しいです。EU加盟の国は、どこも自給を基本として生産しています。

 

 5つめとして、農業の経営主体としては「家族経営」が世界の大勢となっています。家族経営の場合には、基本的には家族が幸せに暮らすために、農業生産を継続していますが、企業経営では儲けないと存続できません。株主への配当もしなければなりません。そこが、家族経営と企業経営の本質的な差違です。

 

 これら5点が一般企業、工業生産と農業生産との大きな違いであります。

 円安で酪農のエサ代が高騰しています。酪農家の経営は厳しくなっていますか。それにも係わらず、私たちの税金を投入して、円安状況を作っています。問題だと思います。


「改定!やわらか成長戦略」を、2014年11月に内閣官房が出しています。これを使用して、アベノミクスについて、お話しします。

 

 アベノミクスの「3本の矢」の中身は、第1の矢は「大胆な金融政策」、第2の矢は「機動的な財政政策」、第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」であります。今のところ、第2の矢までが放たれたと言われています。

 

 成長戦略について、農業に絞って、次の4つの視点をお話しします。

 アベノミクスでは、農業はより自由に、より大規模にとされていますが、先ほど農業にとっては土地が大事だという話しをしました。農業の経営規模の国際比較をしますと、EUは平均20ヘクタール、米国は170ヘクタール、日本は1.7ヘクタールで、大きな規模格差があります。日豪EPAで問題となっています、オーストラリアは2000ヘクタールの規模であり、日本が大規模化しても勝負は明らかです。


 アジアのように水田農業の場合には、用水路など水の管理が重要であり、労働力も必要となります。用水路の維持は集落で担うことが多く、簡単に面積規模を増やすことは難しい状況にあります。ただし、単位面積当たりの収量は多いので、歴史的に見ても人口扶養力の高い地域となっています。

 

 アベノミクスでは規制緩和が言われています。法人税減税が主張されていますが、法人税率30%などと言いますが、実質的にはそんな支払っていません。
 労働市場改革、これまでは超過勤務手当をもらっていた人も、年収の高い人は自分の裁量で働くこととされ、残業ただ働きをせざるをえない環境を作ります。現在の労働基準法制では簡単に解雇できませんが、金銭的処理で簡単に解雇できるようにするといった内容であります。

 

 農業改革の一番大きな目玉は、「農業委員会・農業生産法人農業協同組合の一体改革」であります。


 農地を農地として守っていくのが、農業委員会の基本的で本来的な役割であります。その農地を、自由に使えるように規制緩和しようと、養父市では画策しています。農地管理に関して、農業委員会をすっ飛ばして、市町村で実行しようとしています。農業生産法人でないと農地は買えませんが、その規制をより一層緩和しようとしてます。


 農業委員会改革、農業生産法人改革、農業協同組合改革、この3つをセットにして、農地、農業経営、農業団体の問題を一緒に議論するのがアベノミクスの特徴です。家族農業をやめて、農地を企業に渡していこうとするものであります。先程述べましたとおり、企業は儲からなければなりません。儲からないと、農業部門から撤退してしまいます。かつての「リゾート開発」で経験したように、農地が改廃され、食料供給のための農地が潰されていいきます。
 今の農業生産環境をめぐる状況では、生産コストと農産物価格からみて、どんな企業が農業生産をやったとしても、儲かりません。

 

アベノミクスでは、農地の集約化に重点がおかれています。

農地を守り次世代につなぐ、農地は公共財としての役割があるのですが、大規模化の流れのなかに置こうとしています。

 

 減反調整の見直しを提起しています。食糧管理法を改正し、新食糧法になった時点で、コメを自由に作れることになったのですが、現実には生産調整を実施していまして、水田の4割は減反という状況にあります。ちゃんと作ればコメは作れるのですが、とてももったいない農業生産資源の使い方です。


 米の直接支払の単価が今年から半減し、15000円→7500円になりました。民主党政権下の直接支払では、すべての農家を対象として実施していました。しかし、この直接支払の変更によって、大規模農家が一番困っている状況です。米価が下がったため、大規模生産のための借金が返済できない状態です。大規模農家ほど、規模拡大のために借金したのに返せない状況となっています。

 

 アベノミクスでは、地域の農協が自立し、創意工夫で成長産業にと、記されています。日本の農協は、農産物の販売だけでなく、金融(銀行)業務、共済(保険)業務など、さまざま業務を担っています。地域の人が困らないように、多様な業務を実施しており、農協自身の経営の安定に貢献しています。都市の農家は、不動産経営をしていますが、その経営指導を農協も担っています。


 アベノミクスでは、農協は農業だけとされていますが、それでは農家も困ることになります。農協の組合員には准組合員制度があり、地域住民にとっても農協の存在は意味があることとなっています。


 2014年は国連の「国際家族農業年」であり、飢餓根絶と天然資源保全のために定めました。世界的にみれば家族農業が大勢であり、家族農業の方が、飢餓根絶や天然資源保全にとって、大きな可能性があり、機能的にもがすぐれているとされています。
 日本の農協は、国際的にみても果たしている役割は大きと、北海道大学名誉教授・太田原高昭明先生の『農協の大義』で書かれています。ヨーロッパ中心の学問からすれば、アジアの農業は特殊ということになりますが、それを農協は支えている訳です。

 

むすび

「日本の食と農を考える」を述べたいと思います。

 ①地域の生活と生産を支える公共福祉の重要性
 アベノミクスにより国のあり方が変わり、地域の崩壊・衰退が促進されることとなります。海外で稼ぐことばかりを考えていて、地域で住む私たちは、どうなるのでしょうか?

 

 ②地域社会の維持存続の重要性と必要性
 アベノミクスによる地域経済の崩壊・衰退への対案として、生命と健康を重視し、地域経済の循環的発展で、地域住民の暮らしを支えることを考えることが大事となります。
 食料・農業・環境の一体的保持を図ることが必要です。
 都市と農村の協働・連携が必要となっています。都会にはまだ人がたくさんいます。大阪市内にもまだ大勢の人が残っています。こうした都市住民の力を、農業生産と結びつける努力をしなければなりません。農業経営としては難しいが、環境保全や農業生産の楽しさという、意義があります。

 

 ③自然・環境に優しい社会の形成
 地域経済の構成要素の活性化、地域コミュニティを基盤に考えることが大事なことです。
 協同組合などが地域コミュニティの核になるケースも考えられます。地域での循環をできるだけ増やし、自然・環境の視点を取り入れた振興を図ることが必要となっています。

 緊急出版で『雇用・くらし・教育再生の道』(中山徹編著、大阪自治体問題研究所)がありますので、参考にして下さい。


<文責:ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク事務局>