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開催報告『公共事業のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか』 報告1「公共事業の入札のしくみ、役割」

『TPPとくらしを考える学習会 第3回』は、
公共事業のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか』と題し、9/8 (木)夜開催しました。

質疑応答も活発に行われ、末尾にまとめていますので、ぜひご覧ください。

 

報告2はこちらから→

開催報告『公共事業のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか』 報告2「TPP協定第15章 政府調達」

 

報告1:「公共事業の入札のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか」

報告者 NPO法人建設政策研究所関西支所

 

入札契約制度(入契制度)自体が一般的に知られていない。TPPで建設市場にどういった影響がでるのかを今日は考えたい。

 

1、公共工事の入札契約制度の変遷

少し前までは指名競争入札が原則で、最低価格の業者が入札する流れだったが、業者を指名する際に恣意的に選べるため、入札を巡る談合事件等があり、「透明性・客観性・競争性+国際化」の視点が重視されて、一般競争入札が導入された。災害時などの緊急時には、特別に今でも随意契約し、仕事の着手を優先して、支払いは後ということもあるが。

 

指名競争入札が一般的だったのは平成5年までである。入札談合事件が相次ぎ、昭和61年はアメリカの関空プロジェクトへの参入受け入れがあり、日米建設協議が始まり、建設分野の市場開放要求は始まった。その後、平成6年にガット・ウルグアイラウンドで、政府調達協定が制定された。

 

指名競争入札では恣意的な要素のために汚職等があり、その対策として透明性が求められたことと、米国の日本市場への参入要求という、国内事情と国際事情を背景として、平成6年以降、一般競争入札公共事業の入札契約制度(入契制度)として原則となった。現在、国の公共事業では、200万円以上の工事は全て一般競争入札となっている。

 

 

2、国交省が行っている入札契約手続き

入札に参加したければ、資格が必要である。建設業許可ならびに経営事項審査を経て、有資格者登録がなされる。公共事業競争入札に参加しようとする建設企業は各発注者に申請し、競争参加資格審査において、総合点数を算出し、点数に応じて等級別登録(ランク分け)を行い、有資格者登録者名簿を作成している。総合評価により入札が行われ、契約という流れになっている。

 

現在は、一般競争入札の総合評価方式が当たり前になっている。価格だけを優先しないで、技術力を評価して点数化して落札者を決めており、日本の公共工事の主流のやり方となっている。落札者の選定方法は総合評価落札方式、支払い方式は総価契約単価合意方式が、入札契約方式の主流となっているが、さまざまな方式の組み合わせがある。

 

「施工の力」に加えて「技術提案」の2つのポイントで評価するが、ほとんどが施工能力の評価がメインだ。企業の施工能力と配置予定技術者の実績等を点数化し、評価される。

 

大規模工事になると技術提案を求めて評価する。工事施工にあたって、どう工夫するのかと提案してもらい、その内容を評価して点数化する。総合評価方式と言っても、いろいろなタイプがある。

 

 

3、現行の海外企業の受注状況

WTO(世界貿易機関)の政府調達協定に基づいて、金額によって、今も参入できるルールとなっている。WTO対象・非対象の工事の相違は、450万SDR(当時は約6億円、今年2016年4月で約7億4千万円)以上かどうか。450万SDR以上であればWTO対象工事として、一般競争入札に参加できる。

WTO対象工事は、一般競争入札だけであり、地域要件の設定は不可(内外無差別)である。また、官報に日本語及び英語で公告を行っている。WTO対象工事とWTO対象外工事とを比較すれば、地域要件の設定が大きいだけで、それ以外にはそれ程の差はない。

 

これまでWTO政府調達協定対象工事における外国企業受注実績件数(WTO事務局への通報ベース)をみると、2006年から2010年までで、国では2007年に1件、地方では3件しか、公共事業の受注はない。設計コンサルにおいても、国では2006年に1件、地方では年により1~5件程度しかない。

オリンピックなどの工事においては、外国企業の参入がみられるが、通常の公共事業においてはほとんどみられない。

(編注:2016年米国貿易障壁報告書にもオリンピック等の工事参入への記載がある)

 

ただ、日本国内の外国企業数の推移をみると、日本の建設業許可取得企業数は平成15年で135社であり、毎年増加していることを考えると、民間の工事を請け負っているのかもしれない。

 

 

4、TPP、2015年10月大筋合意を受けての国交省の反応

政府は「アジア・太平洋地域の成長を取り込むための成長戦略の柱」としている。

国交省TPPをどう見ているかというと、「建設業・不動産業のビジネスチャンス到来」という評価である。「守りの観点では、日本の建設市場への影響はない」と分析している。現在も外国企業の受注は少ないことから、TPP交渉参加国が日本の建設市場の開放を求めてこないと分析している。

 

「攻めの観点では、進出機会増大」と考えており、ベトナム・マレーシア・ブルネイではTPPが初の政府調達を開放した。その他各国においては、チリ・ペルー・豪州では調達基準額の引下げをしており、市場開放は進んでいる。このようにTPPによって、日本企業の進出機会増大と評価している。

 

5、大筋合意を踏まえて懸念されること

私たちが懸念していたことに関して、大筋合意を踏まえて考えてみると、以下のとおりである。

 

公共工事受注機会減少の懸念

調達基準額が大幅に下がると、外国企業の競争参加が増え、国内建設業の受注機会が減少すること。また、外国企業の競争参加に伴う行政コストの増大により予算を圧迫し、発注総量が減少する。また、地域建設業者振興策としての分離・分割発注の廃止や発注ロット拡大の可能性がある。このような懸念を持っていた。

 

しかし、大筋合意を見ると、日本の調達基準額はWTO基準が堅持されており、対象規模からみれば現状と変わらない。

 

②建設工事の品質低下の懸念

競争参加条件(例えば配置予定技術者の資格等)の緩和・撤廃によって、日本の天候などの対応を含め、施行ミスや事故が発生し、品質の低下が生じる。また、「一時入国」の要件緩和による外国人労働者の増加によって、新興国からの低賃金労働者の就業に伴って、国内建設労働者の労働条件が悪化する。このような懸念をしていた。

 

しかし、現行のWTO対象工事において付している競争参加条件は、当該発注機関の登録業者(経営審査済・一定点数以上)で、同種工事の実績があり、一定の資格を持った技術者が配置できること、程度であるため、撤廃される以外は緩和のしようがない。また、建設現場における高齢化は著しく、逆に外国人労働者を確保しないと工事できない状況となっている。外国人労働者の技能育成等の対応策については、すでに業界も開始している。

 

 

③入札契約方式への見直しへの懸念

現行の入札契約制度における評価項目のうち、外国企業にとって不利とされる項目の見直し(例えば地域産材の使用や災害協力等)。経営審査点数やランク分け、地域要件等の改廃の可能性があるとして、懸念されていたが、調達基準額が堅持されていることで、海外企業の競争参加は現状と変わらないと思われ、入札契約制度への影響は少ないと考えられる。

 

 

日本独特の重層下請構造、口約束文化(それでも仕事をする)、お金の支払いも手形で現金支払いもない。まずそこで、外国企業とトラブルとなる。仕事が言ったとおりにできないと言うことになり、文化の違いで、まずまともに進まないので、外国企業は敬遠しているという見解もある。

海外に出ていくのも、為替や事故の問題などがある。橋が落ちたなどとなると、補償が大変である。売り上げがあっても、利益が伴わないのが実情である。調達基準額がWTO基準と変わらないのであれば、海外企業の市場参入の増加はないと考えられる。少し、甘い考えかもしれないが。

 

また、国際建設市場で今活躍しているトップ30社のうち半数以上は欧州・中国企業であり、TPP交渉参加国でトップ30に入っているのは、日本4社、米国3社だけである。その意味では、建設分野においてTPPは、国交省と建設業界が「進出機会」増加を意図して、動いていると言えるのではないか。

 

 

6、その他

地域経済活性化のために公契約条例があり、参入障壁とされるのではという懸念があるが、そもそも本条例を持っている自治体自体が少ないので、大きな問題となるとは考えにくい。

 

 

■質疑応答

Q日本では耐震強度は必要だが、米国では耐震強度がそもそも要求されていない環境にある。調達基準額よりも、耐震基準の対応ができるのか、安全性について疑問がある。

 

A 耐震基準などの技術面の基準、使う材料そのものは日本のJISや JASなどの規格があり、建築基準法に合格しなければならない。土木では基準法はないが、匹敵する基準書があり、その基準書に基づく設計どおりに、単純に作るだけであれば、仕様書に書かれており問題はないと考えられる。

 

まともな材料、施工できる技術力があるかが問題。企業の評価を私たちはしており、配置技術予定者はいるが、実際に働くのは下請けさん。しかし、下請けの人たちがどういう人たちかは審査対象になっていない。

極端に言えば、元請けはしっかりしているが、下請けがどうしようもないのであれば、日米にかかわりなく問題である。現状は元請けと下請けは「談合の関係」にあり、お付き合いの世界でお互いに育ってきている。下請けは、下手な仕事はしない、職人さんの腕の見せ所で守られている部分がある。

アメリカの耐震基準そのままでは、日本の法律上できない。日本の法律までなくせということは、TPPでならないのではないか。

 

Q日本の基準が過剰だと、訴えられることもあり、文句を言われるのでは?

 

A 可能性はなくはないが、同じ競争条件で日米競争する、優遇すれば違反というのが一般的な考え方。

同じ条件とはなんぞや?国内の基準が、競争を阻害するものになるのかどうかが焦点となる。阻害するもので撤廃すべきものだとなると、チャラになったりする。利用者・私たちの国民に関わる問題になっていくと言うことだが、どうなるのか。現時点では誰も分からない。外国企業が訴えた時に問題になるが、訴えなければ問題にならない。

 

 

Q 発注通り作るより、あうんの呼吸、発注したものより、良いものを納めてくれるだろうと言うのがあるのでは?日本人同士だと上を目指す傾向があるが、海外企業と取引をした場合、発注どおりの仕事しかしない。発注側の能力が心配である。

 

Q 基準を厳しくして、日米くらいしか入れないようにする可能性もあるのではないか。

 

A 米国の発注者に、基本的に技術者はいない。契約する人はいるが、技術者の部署はなく、第三者機関の中間組織(インスペクター)があり、発注者と受注者の間でのプロ集団に権限がある。

手抜き工事に関しても、インスペクターがいて、設計通りにできない環境に変更、金額が加算する場合も、妥当かどうかをインスペクターが判断する、日本とは違う形態である。

逆に、例えばダムは陸軍がやり、民間企業は手出しできないようになっている。

 

A 確かに、現場力、発注者の能力は下がってきているので心配だ。

米国の建設現場を見ていても、その日ごとに職人を雇ったりしている。いまだにそう。日本では今、そんなことはありえない。日本では、日給であっても日給月給であり、その間雇用しているが、米国は1日だけということもある。そういう米国の文化だから、発注者も月単位で支払う。現金主義だから。不払いがまず起こらない。日本はまとめて払うので、途中で下請けが潰れたら不払いなどもある。

 

日本大手もここにまかしていたら大丈夫という安心感があるが、発注者がどうチェックするか、技術力が備わっているか、品質的に重大な欠陥があるのではという懸念がある

 

ブリュッセルの大使館で「銀行の天井が一部貼っていなくても、問題ない」という文化があると言われた。物を作って納める、日本なら明日の作業をスムーズにしようと、その日の仕事は最後までやるが、作業効率に関係なく時間が来たら仕事を中断する文化である。重層的な下請け構造も、日本に独特なものである。

 

天井内装も、大きな企業はない。年間仕事量を確保できる保証がないので、社会保障の掛け金の事業主負担の境目である、5人くらいまでの中小企業がほとんどである。親方的な会社があって、知り合いの会社に「手が空いてるか、そしたら頼むわ」というように、人間関係がある下請けであり、そのまた下請けへと、仕事を回していく。

 

 

Q 日本企業が進出した場合、日本人の雇用はどうなるのか?

A 現地には、指導的な役割を果たす日本人は連れて行くだろうが、実際に働く人は現地採用となるだろう。

 

 

開催報告『公共事業のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか』 報告2「TPP協定第15章 政府調達」

 

『TPPとくらしを考える学習会 第3回』は、
公共事業のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか』

報告2は、「TPP協定第15章 政府調達」

今回は公共事業の観点として、政府調達だけでなく、国有企業、投資章も絡ませて説明いただきました。

 

報告1は、こちらから→

「公共事業の入札のしくみ、役割とTPP~地域経済はどうなるのか」

 

 

報告2:「TPP協定第15章 政府調達」

 

報告者 樫原正澄さん(関西大学教授、TPP大阪ネットワーク代表)

 

1、TPP協定によって、政府調達はどうなるのか

政府調達について、TPP協定の15章「政府調達」、17章「国有企業」を手掛かりに考える。

 

TPP以前、WTOからすでに政府調達協定(GPA)は入っており、1981年に発効している。しかしながら、加盟国が広がっておらずTPPを起爆剤として広げていきたいと言う思惑があるのではないか。

 

先進国が途上国に「攻めていく」こと。アジアにおいて中国に負けては困るという、アメリカの戦略と考えられるかもしれない。地味な分野ではあるが、着実に機能を発揮するのではないか。

 

TPP協定における政府調達の特徴は3つある。

①使用言語

英語中心である。発注するのに普通は10日でできるが、英語だと40日かかる。審査していくのも英語である。日本語だと簡単にできるのに、手間がかかるという問題が、まずある。

 

②調達の公正性

調達の公正性というのは透明性を高める話だが、どうなるのか懸念されるところである。

 

③政府調達附属書の日本の異常な譲歩

日本の調達基準額はWTO基準が堅持されているが、TPP交渉参加国全体の中でみれば、日本は異常に譲歩していると見える。

 

2、TPP協定第15章「政府調達」の内容について

・基本原理としては、内国民待遇と非差別待遇(15.4条)である。

 

・使用言語(15.7条)は、TPP特有である。TPPは、「使用言語」については英語を奨励している。

 

・調達の公正性は、TPP特有である。

 健全性の確保を主張しており、①政府調達における腐敗行為への行政ならびに刑事上の措置の確保、②違法行為等の供給者の参加資格の剥奪等、③調達従事者等の潜在的な利益相反の排除が、指摘されている。

 日本への影響としては、日本の「談合社会」への懸念が挙げられる。

 

・中小企業の参加の促進は、TPP特有である。具体的にどうなるのかは不透明である。

 

・政府調達に関する小委員会

本章でも、小委員会が規定されているが、具体的な規定はなく、どう機能していくのか懸念される。

 

・追加的な交渉

TPP締約国は「本協定の効力発生日から3年以内に適用範囲の拡大を達成するために交渉を(地方政府適用範囲を含む)開始しなければならない」(15.24条2項)とある。

現時点では大きな変更はないだろうが、「生きている協定」としてどういう方向に動いていくのか、注目が必要である。

 

TPP「投資」章との関係

政府調達と投資との関係は不透明な部分はあるが、「政府調達」供給者が、TPP「投資」章の投資家に該当すれば、「ISDS条項」問題が浮上することとなる。

 

・「政府調達」付属書

TPPでの日本の異常な譲歩となっている。政府調達対象基準額において、他のTPP交渉参加国よりも低く下げている。

 

 

3、TPP協定第17章「国有企業」の特徴と問題点

TPP協定の国有企業の基本的な問題点は、次のとおりである。

 ①TPP協定が国有企業章を初めて設けた。

 ②国有企業章の基本は、無差別待遇、商業的配慮であり、非商業的援助との対抗関係にある。

 ③国有企業の否定、商業ベースの競争条件の整備。

 

TPP協定第17章「国有企業」の内容について

 定義(17.1条)として、国有企業、指定独占企業と書かれている。

 

 日本の「国有企業」としては、業種別には、病院(研究機関を含む)、金融(開発・国際)、高速道路・空港・地下鉄等の輸送インフラ、投資ファンド、資源・エネルギー関連、放送・通信等である。

 日本郵政グループ、農畜産業振興機構等。

 地方自治体による公有企業である、鉄道、空港、病院等々の「公社」。

 

小委員会設置(17.12条)が本章にも入っている。

 

 追加交渉(17.14条、付属書17-C.D)の規定があり、発効後5年以内に、地方政府傘下の企業に関する留保されている規律(17-D)を適用すること、及びサービス提供による6条(非商業的支援)及び7条(悪影響)の規律を域外国市場に生じる影響に迄拡大すること、について追加交渉(17-C)とされている。

 

付属文書Ⅳにおいて、特定の国有企業等の特定の活動については、本章の特定の規律を留保できるにもかかわらず、日本は留保していない。

 

・懸念される事項としては、次のとおりである。

①国有企業の定義が不透明。

②適用範囲限定の不十分さ。

基礎的な社会インフラである、鉄道、病院、郵便事業等の取り扱いがはっきりしない。

③非商業的援助に対するISDS提訴の可能性。

④海外急送便事業を持つ郵便事業への制約。