「ほんまにええの?TPP大阪ネットワーク」

私たちは、日本政府にTPP交渉における「国民への説明責任を果たす」こと、衆参農林水産委員会における「国会決議を遵守する」ことを求め集まった、大阪で活動する約30団体のゆるやかなネットワークです。FBページはこちらから→https://www.facebook.com/tpposakanet/

『自分で食べるものを選びたい ~食品の表示とTPP~』 報告1「食品表示の監視指導の現場から」

『TPPとくらしを考える学習会』
6/30(木)夜開催の『自分で食べるものを選びたい ~食品の表示とTPP~』開催報告を3人の報告者によって分けて報告します。

報告1「食品表示の監視指導の現場から」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/160544

報告2「TPP協定と食品の表示問題」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/161133

報告3「食品表示で懸念されること」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/165258

 

 

■報告1「食品表示の監視指導の現場から」

報告者 Sさん(全農林大阪分会)

 

食品表示法ができたものの

 

2015年4月1日、食品表示法が施行された。これまで食品表示に関係する法律としては主に3つあり、①「食品衛生法」、②「健康増進法」、③「JAS法」である。その他、種々の法律がある。

消費者庁が設置され、主務官庁となって、食品表示に関わる法律を一つにまとめたものが、「食品表示法」である。

 

食品表示法」が制定されたことは、消費者行政にとって一歩前進ではあるが、積み残された課題もある。たとえば、中食・外食のアレルギー表示、インターネット販売、遺伝子組み換え表示、添加物表示等々である。

 

◇どうやって監視指導しているか

監視指導の現場では、2人一組で2時間を基本にして、店舗での抜き打ち検査を実施している。店舗の食品責任者とともに、店舗の表示義務のある商品について、たとえばプライスカードにその製造者の記載が正しく表示されているかをチェックする。

 

通報による、店舗の立ち入り検査も実施している。一般の検査と併せて、アウトパックという、他の業者が作って販売するケース、たとえばあさりについて、その業者を調査して、表示どおりのあさりの産地であるかを確認しており、不正が発覚することもある。

 

TPPによって食の安全に関する制度は変わらないと政府はいうが

TPPによって食の安全がすぐに変更されるというよりも、食の安全に関わる問題発生時に、TPP協定に基づいて新しい判断が下され、食の安全は変更されるのではないか。

 

オーガニック食品は普及しいているが、日本の基準は独自にあり、米国のオーガニック食品も日本の基準に適合しなければ、輸入できない。そこで、TPP協定発効後に、規制緩和・基準の統一化の可能性はあると思われる。

 

食品表示の監視員体制はどうなっているのか

食品表示監視2000人体制という目標もあったが、現実には監視員自体の減少は続いている。表示監視の基準は法律で決められているが、監視業務の方法は決められていない。

 その時の情勢によって、監視員の配置が決まる仕組みとなっている。

 

消費者庁が監視業務を統括するのがすっきりしているが、地方に出先機関がないため、何かあれば東京から出張することになるが、人員が決定的に足りない。人員整備されるまでの間は、農水省の出先機関が肩代わりしている面もあるといえるかもしれない。

 

しかしながら、農水省の出先機関職員の平均年齢は、すでに50歳を超えており、10年後は退職となるため、TPP協定締結後の食品表示に係る監視体制には不安が残る。

 

国内の監視体制としては、農水省が一番多く、都道府県市の保健所は独立して、食品表示の監視業務を担っている。しかし、人員体制に関しては公表されていないようである。

 

大阪府内で監視委員の資格を持っている人は110人程度であり、この数字から推測するしかない。ちなみに、輸入検疫は2人増えたが、406人しかいない。

 

 

『自分で食べるものを選びたい ~食品の表示とTPP~』 報告2「TPP協定と食品の表示問題」

『TPPとくらしを考える学習会』
2016/6/30(木)夜開催の『自分で食べるものを選びたい ~食品の表示とTPP~』開催報告を3人の報告者によって分けて報告します。

報告1「食品表示の監視指導の現場から」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/160544

報告2「TPP協定と食品の表示問題」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/161133

報告3「食品表示で懸念されること」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/165258

 

 

■報告2「TPP協定と食品の表示問題」

報告者 樫原正澄さん(関西大学教授・TPP大阪ネットワーク代表)

 

食品表示を、TPP協定から考える

今回は、TPP協定の第8章「貿易の技術的障害(TBT)措置」を手掛かりに、食品表示問題を考えたい。

 

結論を初めに述べれば、政府の発表のとおり「TPP協定によって日本の食品行政の制度変更はない」といえるが、それはTPP協定において詳細・具体的に食品表示に記載されていないためである。つまり、今後の運用ならび交渉によって、食品表示制度は変更されるということである。

 

TPPのTBT章は、WTO(世界貿易機関)のTBT協定に準じて構成されている。全体的にみると「貿易促進を強調している」ことが特徴となっている。そこで、TPP協定の運用において、このTBTの精神(貿易促進)が生かされることとなる可能性が高い。

 

◇「透明性」の確保とは

第7章のSPS(衛生食品検疫)との関連をみると、従来の「透明性」はどちらかといえば「基準策定プロセスの公正性の担保と、それの各国への通知」という意味合いが強かった。

 

しかし、TPP協定第8章第11条「TBT小委員会の設置」においては、「透明性の確保」に関わって「利害関係者の関与」が記載されており、この現実的な運用が鍵を握ることになると考えられる。

 

海外の利害関係者という記述があるが、これはどう読んでも企業関係者のことを意味しており、具体的に運用した際には、日本での規制強化に反対することは必然となるであろう。このように、今後の運用に委ねられている「利害関係者の関与」が協定文に書かれており、問題を残している。

 

◇「TBT小委員会」の設置

WTOと同様に、TPPでも設置することになっている。ただし、委員会の性格や機能については、何も規定されていない。政府の説明のとおり、単なる情報交換の場であればよいが、そうはならないのではと推測される。

 

国内ルールを設ける際に「利害関係者の関与」を規定している。また、新たな規定を実施する60日前までに、相手国の利害関係者に意見を聞かねばならないとされており、日本の規制を強化しようとすれば、多くの解決しなければならない課題を抱えることとなる。

現実的には、規制緩和を促進する方向を強める危険性が高いといえる。

 

すでに、外務省は、2011年時点でTBTに関して、「透明性の手続き整備」や、「個別分野についての規定」について懸念を表している。これらの懸念についても、国会であきらかにすべきだ。

 

また、日米並行協議において、日本政府は、外国貿易障壁報告書の意向に沿った対応に終始しており、日本のこれまでの交渉経過や、食品行政を考えると、不安材料はいっぱいである。

 

『自分で食べるものを選びたい ~食品の表示とTPP~』報告3「食品表示で懸念されること」

『TPPとくらしを考える学習会』
6/30(木)夜開催の『自分で食べるものを選びたい ~食品の表示とTPP~』開催報告を3人の報告者によって分けて報告します。

報告1「食品表示の監視指導の現場から」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/160544

報告2「TPP協定と食品の表示問題」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/161133

報告3「食品表示で懸念されること」

   http://tpposaka.hatenablog.com/entry/2016/07/09/165258

 

 

■報告3「食品表示で懸念されること」

報告者:飯田秀男さん(全大阪消費者団体連絡会)

 

TPPが決まったら、どういう食品が入ってくるか

厚生労働省が、輸入食品相談指導室における輸入相談実績の一覧を作成している。

 

これは、「これまで輸入したことがない物品」や「初めて輸入する事業者」などに対し、検疫所が相談業務を行っているもの。その相談事案を検査した結果、これだけ違反が起こっているという推移を示している(図表参照)。

 

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国別・品目別に表示されており、米国の違反件数が毎年一番多い。

 

2014年度は117件の違反であり、その半分以上が健康食品である。すなわち、「今の規制ルールでは輸入できなかったが、輸入したい、売りたい」という、事業者はたくさん存在していることを意味している。

未認可の添加物について、「日本で早く承認すべきだ」という、圧力が高まることが容易に予測される。

 

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 【厚労省】平成26年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果より

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/kannshishidoukextuka_26_zenntai.pdf

 

食品表示はどうなるか

実際にTPP協定が発効すれば、どういう懸念があるかを考えてみました。

「食品の一括表示」は非常に細かいため、変更するのは大変な作業であり、当面変更されることはないと思われます。

 

しかし、「健康増進法」、「景品表示法」の対象は広範囲であり、「なぜ変更のためにコストを払うのか」という内外の事業者の不満が高まれば、規制緩和の議論になるのではないか。

 

遺伝子組み換え食品はどうなるか

遺伝子組み換え食品」の現行の表示ルールは、そもそも「選択の機会」を保証するためであり、安全かどうかを消費者の選択に任せる観点からのものではない。

安全かどうかは、意見が分かれているため、安全性を軸にして表示のあり方を問題提起をすると、混乱することとなる。

 

 遺伝子組換え食品の是非を安全性だけで議論するのは難しい。

生物多様性の保護の観点や、自然界に存在しないものを人為的に創り出す行為煮の嫌悪感を持ち、倫理的に問題はないのか等を、問題提起している人もいる。

 

また、安全性に問題があったとしても、それを科学的に証明することは実質的にできないのではないか。

 

米国の連邦法では表示義務はないが、州法で表示するよう住民投票などで決まった州がいくつかある。しかし、連邦法でそれを無効にし、表示しない方向に進めようという動きがある。

 

TPPには、遺伝子組み換え食品の表示をどうするなどとは書かれていない。

遺伝子組み換えに関連しそうな協定文は、第8章TBTだけでなく、たとえば第2章でもでてくる。あちこちに出てくるので、全体像は実際に交渉をした人しか分からない。

 

SPSも食の安全で言えば、予防原則ではなく「科学的根拠」が基準になる。TBTでSPSを抑え込む形になるのではないか。しかし、それは各章が他の章とどう関係しているのか、他の章で隠されている問題は何か、勉強をより強めることが大事である。

 

ちなみに、「科学的根拠」とは、簡単にいえば「コーデックス委員会」の基準であり、そこではアメリカの判断が大きく影響している。

 

◇日米における食品表示を比べてみると

同じグリコのポッキーでも、表示に違いがある。たとえば、ビタミンなど栄養素が書かれている。「機能性表示」が昨年から変わった。もともと米国のサプリメント制度に合わせて、米国貿易障壁報告書で要求がでていた事項である。

 

消費者庁での検討会の意味

現在、消費者庁の3つの検討会が進んでおり、2016年秋に取りまとめるといわれている。

 

3つとも、何らかの形で「成長戦略」に関与しているのが特徴であり、企業が儲けることを前提として動いている検討会である。

当面は、日本企業のためのビジネスチャンスの提供ではあるが、TPP以降は海外事業者も同様の立場(内国民待遇)となり、米国企業の主張を聞くことは十分に想定される。

 

本検討会は3つとも消費者庁内に設置されている。

これまで制度を変える場合には、外部の意見を聴くために消費者委員会等に諮問し、答申を得て、政府が変更について判断するのが普通の手続きであった。それにもかかわらず、わざわざ外部に設置しなかったことには疑問が残る。

消費者庁の事務局主導で、議論する形を進めているのはなぜだろうか。委員会なら消費者庁は指導ができないことを考えると、さまざまな思惑があるのではないかとみている。